2学期も12月に入り、4年生の城島氏からLINEが入った。4年生で肉塊のアザラシが4年生の学年LINEでアドバイスしている様子をスクショした物だった。

『明日の肺音の授業なんですけど、基本大原勘九郎の講演会です。
テキスト借りようと思ったら短大にしか残ってないらしいんだけど、別に持ってなくて大丈夫だし、肺音のCDもまあ、聞いてなくてもまああんま問題ないです。
希望者には多分家帰ったら教科書のデータあると思うんで回しますー。
必死に探さなくても大丈夫ー。』

僕は城島氏のLINEに返信する。

「ケッ!演劇部の後輩以外には随分優しいんだな。いや、まだ猫被り中かも。1年目は別人のように甘かった。」
「ワロタ。」
「騙されたら駄目だよ。一旦心を許せばとことん利用されるぞ。距離を取っても何か虚しい物が残る。これはターゲットにされた人間にしかわからないだろうけど。」
「難しいね。」

アザラシは影で4年生達の悪評をばら撒いているのに当の4年生の前では相変わらず猫を被っているようだ。医学部演劇部の1年生達に対してと同様、取り込む気なのだろう。

アザラシと元同じ学年のJAZZ研究会の6年生男が未成年を買春するいう事件が起こったが、また一件別に学生が未成年に手を出す事件が起こってしまったため、大学側は以前あった覚醒剤防止の講座に加えて、未成年買春防止の講座を行なう事になった。

一体何だろうなこの大学は。大学生になったら自己責任だと思うのだが。妙な所に力を入れ過ぎてるというか。

はっきり言って時間の無駄だ。

2学期に入ってから他の4年生も忙しくなったのか遭遇率が減った。代わりにアザラシの遭遇率が増えた。

1学期全く来ていなかったのが、2学期から氷川教授の警告もあり来るようになったのだ。当たり前の事だったが、僕には苦痛でしかない。

ある日、アザラシと偶然6階3年生の教室前で遭遇した。アザラシが僕に話しかけてくる。

「あのさあ、頼みがあるんだけど?」

はあ!?こっちはお前の頼みなぞ聴きたくないわ!殺す!

アザラシの短大2年生羽村さん追放騒動を聞いてから僕は殺意と恐怖を隠し切れなくなっていた。

何とか平静を装い、アザラシに尋ねる。終始アザラシの顔は見なかった。

「何ですか?」
「冬に地元の大学の方で公演があるらしいねん。エビ、観に行ってくれへん?」

ほお、地元の大学の新人公演を自分が観るのは面倒くさいから休部中の人間に面倒を押し付けようってことか。殺す!

「私は観に行かれへんし。」

退部を許さないのは都合のいい時に利用したいためか。殺す!

「エビ、暇やろ?」

こっちは観に行きたくても観に行けない体にされたんだよ!誰かの嫌がらせのせいで!フラッシュバックが起こって大変なことになるわ!殺す!

「いえ、無理ですね。」
「え!何で?」
「その日は、僕も用事があるんです。僕も暇じゃないんですよ。」

アザラシは去って行った。

にしても、太々しい奴だ!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…

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それから数日後、4年生の九島氏に遭遇した。セミナー発表が上手くいったらしく上機嫌だった。

「和嶋さん、めっちゃ賢いな!和嶋さんのプレゼンで上手いこといった!」

アザラシのプレゼン能力を絶賛していた。確かに奴はアドリブ力だけは凄まじいものがあった。奴のアドリブ力の高さで部員達は皆騙されて来たのだ。奴が演劇経験者と思い込まされて来たのだ。

奴のアドリブ力はサイコパス特有の恐怖心の無さから来る物だろうな。

1月が過ぎて4年生の結果は早めに出た。4年生で留年したのは副学長の息子らしき人物を含めてわずか数人。当然アザラシも受かった。

くそ!腹立つ!あいつにとってはこの留年後の1年間が最も好き勝手できた1年だったろう。

ただし、この次の年度から5年生はオスキーに加えて総合試験が3つに増えるらしい。どうもカリキュラムを毎年変えるのがこの医学部の特徴だ。よっぽど国試合格率を上げたいのだろう。

もっと他にやる事あるだろうが!不必要に夜中まで稽古する部活動の皮被ったどっかの宗教団体潰すとか!

1月に入り、facebookを見ると医学部演劇部顧問の西山准教授が学報の写真を載せていた。

「うちの大女優も載ってた。」

アザラシの前年の公演の写真が載っている。西山准教授からしたら宣伝のつもりかもしれないが、アザラシが影で何をして来たのかこの馬鹿顧問は分かっているのか。

この前年に結婚したそうだな。即刻離婚しろ!

そして、この記事を見た瞬間、僕の腹わたが殺意で煮えたぎり体中の血が沸騰した。

僕は母に電話する。

「なあ、おじさんに頼んででも金用意して探偵雇ってくれない?あいつの過去を洗いざらい暴いてやりたい!」

自分の仮説を証明して、アザラシの演劇部内の地位を失墜させたかった。せめて、殺す事が出来ないならアザラシからあの組織を取り上げたかった。

だが、まだ僕に対して理解がなかった母の意見は、

「そんな事して何になるの?勉強し!そして、進級できたらあんたが今まであの女に何をされたか洗いざらいその顧問にぶち撒けて退部届けを突き付けてしまえ!」

という物だった。

僕はその意見に取り敢えずは承諾した。

尤も実行できていたとしても、僕がまた悪者にされて終わるのだろうがな。アザラシの正当化はそれ程恐ろしいし、この1年間の家族を含めての無理解は僕の心に「所詮人間は1人である。」という事実を嫌という程、実感させていた。

だが、この時、僕は気付いていなかった。

副学長の須川教授が言う通り2学期は確かにゆとりが出た。だが、ゆとりが出たのは学生だけではない。教授陣も同じだった。

だから、幾らでもテストを難しくすることができる。出題範囲だって変更可能だ。

僕に退学の危機が忍び寄っていた…


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【参考URL】
花言葉
http://www.hanakotoba-875108.com/archives/14104440.html


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